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コラム

おカイコ様が世界を救う – 新型コロナウィルスのワクチン 「養蚕業の復活を祈る」

皇室との深いかかわり「日本を支えたおカイコ様」

おカイコ様と聞くと、何を想像するだろうか。おカイコ様と言えば「尊さ」を表す。おカイコ様改め、は(かいこ)は、クワ(桑)を食餌とし、絹を産生して蛹(さなぎ)の繭(まゆ)を作る。有史以来養蚕の歴史と共に生きてきた。つまり皇室と歴史があるのだ。

歴代皇后が継承してきた皇室の伝統行事「養蚕(ようさん)」。令和への代替わりに伴い、皇后雅子さまが上皇后美智子さまの後を継ぎ、今年から取り組んでいる。5月29日には蚕に桑の葉を与える「御給桑(ごきゅうそう)」に臨んだ。29日夕。木々に囲まれた皇居のほぼ中心部にある「紅葉山御養蚕所」に、雅子さまの姿があった。木造2階建てで1914(大正3)年築の養蚕用施設。雅子さまは住まいのある東京・元赤坂からここに通い、養蚕作業を行っている。皇室と養蚕の関わりは古い。日本書紀には、5世紀に雄略天皇が皇后に養蚕を勧めたとの記述がある。明治時代には生糸が輸出品目の主力となるなど養蚕業が重要産業とされ、明治天皇の妻・昭憲皇太后が奨励のために養蚕を始めた。その後、大正時代の貞明皇后、昭和時代の香淳皇后、美智子さまと約150年にわたって継承されてきた。

蚕に桑の葉を与える皇后雅子さま=2020年5月29日午後4時50分、皇居、宮内庁提供

今でも、養蚕作業は100年以上前に確立した工程に倣って行われており、空調設備や人工飼料などは使っていない。養蚕の専門家である主任を中心に、農業高校卒業生らの助手が毎年、の孵化(ふか)から繭を収穫するまで約2カ月間住み込みで作業をしてきた。

 

皇室と密接な養蚕―もう少し歴史を深堀しよう。

日本では江戸時代、学のある人たちの間で養蚕業が広がったようだ。日本の養蚕技術は本となり、来日したドイツ人医師シーボルトによって欧州にも持ち帰られた。この土壌のうえで、明治政府が官営の富岡製糸場を作るなどし、外貨獲得の手段として養蚕業を推奨した。ただ、1930年代以降にナイロンなどの化学繊維が普及。中国などから安価な絹製品が輸入されるようになったことも影響し、一時は220万戸あった国内の養蚕農家は500戸以下へと激減した。養蚕は紀元前15世紀ごろから始まったとされ、日本では1~2世紀ごろに始まり、1909年には生糸生産高が世界一になっている。その後は衰退の一途をたどり、今は中国やインドなどが主生産国だ。一連の研究で日本の養蚕の歴史に新しいページが加わりそうだ。カイコを製薬業、医療分野で活用する動きが出てきている。

 

「虫から薬」をつくる時代がやってきた!カイコが製薬業界の救世主となる?

 

  • エイズウィルスの早期発見

  明治時代に多くの外貨を稼ぎ、近代化を支えたカイコが、新たな「糸」を生み出し始めた。遺伝子を組み換えると、「繭」にエイズウイルスなどを早期発見できる抗体が組み込まれる。HIVは体内に入ってもすぐに発症せず、数年から約10年の無症候期が続く。この間にウイルスは増殖し、徐々に体の免疫機能を壊していく。免疫力が低下するとカビや細菌への抵抗力が弱まり、人間は感染症に苦しむようになる。早期発見がエイズへの対応のカギだ。 求められているのは、ウイルスの動きを感知する診断薬だ。わずかな「抗原」にも反応する「抗体」があれば、体調の変化を待たなくても、体内へのウイルスの侵入が分かる。オーダーメード医療にも道を開く新技術を生かすには、製薬会社の協力が欠かせない。

 

  • 虫から薬をつくるとなると抵抗もある人が多いのでは?

「虫から薬」と聞くと、虫に菌類の胞子が付着することで冬は虫の形をしているものの夏になるとキノコが草のように生える漢方の冬虫夏草を思い浮かべてしまう。しかし、現代はまさに昆虫から薬を作り出すという時代を迎えつつある。なんだか漢方のように苦そうで口にするのもためらわれるが、開発が進んでいるのは、外科手術の際に使ったりするものなので、口に入れるのではないのでご安心を。

薬を作るのに使われるのは遺伝子組み替えで作った特殊なカイコの幼虫。幼虫が吐き出す絹糸は「フィブロイン」と呼ばれる繊維状のタンパク質でできている。人工的に育種されたカイコは絹糸を作り出す絹糸腺と呼ばれる組織が巨大化しているので、遺伝子組換えができれば目的とするタンパク質を効率よく生産できるわけだ。2000年には独立行政法人農業生物資源研究所(茨城県つくば市)がカイコの遺伝子組換え技術の開発に成功、カイコの幼虫を生物工場として活用しようというアイデアが現実のものとなってきた。

さらに同研究所は、08年にはオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質を利用してカイコから光るシルクを作り出すことに成功。14年8月には強くて切れにくいクモ糸の性質とシルクの性質を合わせもつ新しい”クモ糸シルク”を生産するカイコを作り出すことにも成功したと発表している。クモ糸シルクは通常のシルクの1.5倍の切れにくさを持ち、将来的には手術用縫合糸などの医療素材や防災ロープ、防護服などの特殊素材への応用が期待されている。

 

  • がんを治療する抗体医薬品にも期待

カイコに薬を作らせる研究だが、すでに病気の診断薬や化粧品用のコラーゲンとして実用化されているほか、アルブミンやフィブリノゲンなどの血漿タンパク質の開発が進められている。 ヒト型フィブリノゲンの開発にあたっているのがアステラス製薬と免疫生物研究所(本社・群馬県)。共同では医薬品への製品化を目指して研究中で、最近になって基礎的な研究段階から次の製造方法を検討する段階へと進展、2020年の製品化を目標に研究を続けるとしている。フィブリノゲンは血液の凝固に関わるタンパク質で、外科手術の際などに止血剤などとしても使われている。複雑な構造をしていることから人工的に作り出すことができず、現在ではヒト血液を原料に生産されている。こうした血漿タンパク質は生体内で抗原抗体反応に関わることから、がんを治療する抗体医薬品の生産にもカイコが期待されている。 ヒトや動物など生物由来の医薬品は「生物学的製剤」と呼ばれ、かつて起こった非加熱の血液凝固因子によるHIV(エイズウイルス)や肝炎ウイルスの感染といった問題に代表されるようにリスクも伴うため、現在では安全性の高い遺伝子組換技術によって大腸菌などで生産する方向になっている。

実は糖尿病治療薬のインスリンも、1922年に初めて投与された当時は動物の膵臓から抽出したものだったが、今では大腸菌や酵母菌などの遺伝子組換えによって作りだされているのだ。

 

カイコと新産業の創出 – 「オーダーメード医療」にも

 

エイズは患者ごとに病状が異なるため「オーダーメード型」の治療薬を作れれば理想だ。カイコは1匹ずつ、吐き出す糸を変えることができる。免疫生物研が狙うのは大量供給だが、「融通が利きやすい」というのが関係者のカイコ評だ。遺伝子に傷がついて異常な細胞が広がるがんの治療にも、カイコの持つ柔軟性は優位に働きそうだ。

農研機構も新技術の開発に躍起だ。例えば「クモ糸カイコ」。オニグモの遺伝子を注入したカイコで、吐く糸は通常の糸よりも5割ほど強く、伸縮性が高い。「さらに切れにくく改良し、細さと強さが求められる手術用縫合糸への活用を目指す」(門野領域長)。糸に抗体を組み込めば、体内で染み出す医薬品の開発につながるかもしれない。

関係者の多くは「技術は確立している」と口をそろえる。ただ現時点で、医療への実用例は少ない。製品化に至っているのは日東紡グループの骨粗しょう症の診断薬、免疫生物研のアルツハイマーの検査キットなど数えるほどだ。

背景には、大手製薬会社の協力が得にくいという事情がある。製薬各社は培養タンクなど従来手法に巨費を投じている。斬新な技術の登場は既存の手法の陳腐化を招く。「リスクを取って新たな手法に取り組むモチベーションは高くない」と関係者は顔を曇らせる。

今年3月には、アステラス製薬と免疫生物研のプロジェクトが打ち切られた。カイコを使った止血用タンパク質「フィブリノゲン」の共同研究で、カイコの活用に風穴を開けると業界の関心は高まっていたが、「生産量が計画に満たなかった」(免疫生物研)のだという。とはいえ、カイコが吐く糸の可能性は陰らない。群馬県の農家では蛍光シルクを生む遺伝子組み換えカイコの飼育が始まった。狙うは「光る服」や「光る壁紙」だ。化粧品としても繭から精製したコラーゲン成分の活用が広がってきた。

 

カイコの体内で生成 新型コロナのワクチン候補「食べて接種」も? 九大など開発

九州大は、九大発のベンチャー企業「KAICO」(福岡市)と共同で、新型コロナウイルスのワクチン候補となるたんぱく質の開発に成功したと発表した。九大で飼育するカイコの体内で人工的に生成でき、大量生産が可能だという。今後、マウスを使った実験を経て、来年度には製薬会社と組んで臨床試験(治験)に入る考えだ。将来的には、カイコのまま「食べるワクチン」の開発も視野に入れている。

九大農学研究院の日下部宜宏(たかひろ)教授(昆虫ゲノム科学)らのチームは、昆虫にしか感染しないとされるウイルスに、公開されている新型コロナウイルスの遺伝子情報を組み込み、カイコに注射。5日ほどでカイコ体内に「スパイクたんぱく質」が作られることを確認。スパイクたんぱく質は新型コロナウイルスの表面にあるとげ状のもので、人の細胞のたんぱく質と結合して感染が起きるとされる。

九大はカイコ研究・収集で100年以上の歴史がある。日下部教授らは飼育する約450種の中にたんぱく質を多く作ることができる系統があることを発見し、新型感染症のワクチン研究を続けていた。既に家畜のコロナウイルス用ワクチンを開発しており、その技術を生かす。今後のマウス実験で感染をブロックできる抗体ができるかなどを検証する。九大は世界的なカイコの研究機関として知られる。カイコは遺伝子操作したウイルスを注射すれば狙ったたんぱく質を体内で生産できることから、このたんぱく質を使って、新興の感染症を想定したワクチン開発技術を研究してきた。

26日の記者会見で日下部宜宏教授(昆虫ゲノム科学)は「ワクチン開発は世界中で進むが、スピードよりも、途上国も含めて接種できる安価なワクチンを、安定して生産することをめざしたい」と話した。また、九大の西田基宏教授(薬理学)らは26日、すでに使われている約1200種類の薬の中から、新型コロナの重症化防止も期待できる薬を3種類、発見できたと発表した。新型コロナの患者にも見られる呼吸不全や血管の炎症などの治療薬のため、早期の投与開始が見込めるとして「年内にも実用化につなげたい」と説明している。

 

「伊勢神宮に奉納」日本を支える数少ない養蚕農家のご紹介  

  新城市出沢(すざわ)の養蚕農家・海野久栄さん(96)が今年も蚕を育てています。平安の時代から知られる絹糸のブランド「三河赤引糸(あかひきのいと)」を紡ぐ繭を生産している。海野さんは、上田市から蚕種(蚕の卵)を購入し、5月4日掃き立て、蚕を飼い始めました。桑の葉を食べ日に日に成長した蚕は、1か月ほどで約8㌢の大きさになった。繭を作る時期を迎えると、均等に繭をつくるように回転させる回転蔟(まぶし)に蚕を入れ、風通しの良い高い場所に設置します。これが山入れ(上蔟・じょうぞく)という作業である。3日間山入れが行われるそうです。蚕はそれぞれマスを選び、2、3日で繭をつくる。
「赤引糸」は明るく清らかな絹糸の意味があり、伊勢神宮で神が着用する冬の御衣(和妙・にぎたえ)の原料となる。和妙は、神宮の神御衣祭(かんみぞさい)で奉納される。できた繭は、田原市亀山町の神宮神御衣(かんみそ)御料所に送られる。御料所では毎年6月下旬、伊勢神宮に奉納する絹糸「三河赤引糸」を紡ぐ「繰り糸始め式」が行われる。7月初めには、奉納生糸は伊勢湾を横断する伊勢湾フェリー「お糸船」で伊勢へ運ばれ、内宮へ奉献される。ただ、今年はコロナウイルス感染拡大を受け、例年通りの「お糸船」は出ず、農業協同組合により伊勢に運ばれ奉納される。

海野さんは「養蚕は人生そのもの。今年は奉納120年の記念の年。良い糸を届けたい」と話す。

 

まとめ

かつて多くの外貨を稼ぎ、日本の近代化を支えたカイコ。日本伝統の養蚕業の継承、国内で新たな産業が生まれる予感。世界に先駆けて成功例を作ることが重要である。歴史を紡いできた「おカイコ様」が世界を救い、日本の養蚕業の復活を遂げるべく当研究所も今後の動きに注目していきたい。我々の今後の活動として玉糸の祖である小渕志ちを広めると同時に、生糸(シルク)文化継承のため、当研究所では、皆様と積極的にコラボレーションを図り、日本の養蚕業の発展に強く寄与していきたい。伝統ある日本の産業と文化を後世に伝えるべく、さらなる情報発信をしていきたいと考えている。

 

   

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